今号の特集は「グラフトレスサイナスリフト」いわゆる骨補填材を入れない上顎洞底挙上について林揚春先生(東京都)に実際の手技や治療経過、予後などを含め、その治療効果を解説していただいています。
従来の上顎洞底挙上術では、ラテラルアプローチ、歯槽頂アプローチに限らず挙上領域に填入された骨補填材が感染など合併症の一因になっていることが指摘されています。また、上顎洞は本来骨ができやすい(石灰化が起こりやすい)領域であり、それらの新生骨形成の大部分は上顎洞内の骨壁から生じています。骨を造るために填入した骨補填材は骨治癒の初期に生じる上顎洞内骨壁からの新生微細血管の形成を阻害している可能性もあり、それによる免疫細胞の活動低下が感染のリスクを高めているとも考えられます。今号の特集で紹介している症例を見ていただければわかるかと思いますが、エクストラワイド・ショートインプラントを用いた骨補填材を入れない上顎洞へのアプローチでは、血餅由来の骨形成が生じてくるのでオッセオインテグレーションの獲得が圧倒的に早く、骨補填材に由来する感染のリスクもありません。上顎臼歯部へのインプラント治療では信頼性の高い選択肢となり得る概念であり、各種手術手技の動画もQRコードで閲覧が可能となっています。
吉野晃先生(東京都)と船木弘先生(東京都)からは、「FINESIA®インプラントによるショートインプラントの適応戦略」と題して、近年のインプラント治療におけるショートインプラントの評価や実力、適応症などについて解説いただきました。
前田 貢先生(東京都)からは、審美領域のインプラント治療戦略(連載)における臨床編「審美エリア単独歯欠損へのインプラント治療」の第三段(連載は4回目)として、Combination Graft(硬軟組織グラフト)を併用したインプラント治療による再建の症例を解説いただきました。審美目的でCTGなどの軟組織移植を多用するのではなく、骨の裏打ちのある軟組織の審美回復が重要であることをバイオロジーの観点も交えながら解説いただいています。
覚本嘉美先生(栃木県)、八木原淳史先生(茨城県)らのグループによる連載の「エビデンスにはとらわれない臨床経験から紐解くインプラント治療の疑問」は、「インプラント補綴の噛み合わせってどう考えたらいいの? 噛み合わせは形ではなく力 ─ インプラントの咬合とロングスパン設計」という疑問から固定性インプラント補綴装置についての考え方や実際を、「インプラントオーバーデンチャー(IOD)簡単そうだけど注意点はあるの?」という疑問から可撤性インプラント補綴装置についての考え方や実際について答えていただいています。
岡野諒太郎先生(大阪府)からは、林揚春先生(東京都)が提唱する4S concept(Minimalism)継承する若手歯科医師として「4S conceptに基づいたインプラント治療を用いたオープンバイトの咬合再構成」を報告していただきました。どうしても矯正治療を受け入れられない患者に対して、4S conceptに基づいたインプラント治療と補綴治療を駆使して短期間に治療を終えた症例を紹介していただいています。
塚本茉由先生と新名主耕平先生(東京都)からは、「アバットメントスクリュー破折症例におけるスクリュー破断面についての考察」と題して、アバットメントスクリューが破折した上顎単独インプラント補綴症例において、撤去したスクリューの断面の評価を電子顕微鏡画像にて解析検証を行った結果を報告していただきました。
鈴木光雄先生(東京都)からは、近年、医療・美容分野での組織修復やアンチエイジングへの応用が注目されているエクソソームについて、インプラント埋入手術後の治癒促進や、インプラント治療を前提とした抜歯窩のソケットプリザベーションに応用した症例を紹介するとともに、エクソソームの基本的な解説と歯科治療におけるエクソソームの適応症、さらに使用に際しての注意点などについて解説いただいています。
これからも患者に対する負担の少ない安全で安心なインプラント治療を広く普及させるための有益な情報を発信できるように努めていきたいと思います。